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大槻唯にスターラブレイションを選曲することがなぜ正しいのか、Radio Happyの世界観について

デレマスにおけるカバー曲の重要性

※この節は本題に入る前に必要な前提認識の共有のための節なので飛ばしても大丈夫です

アイマスには、実在アーティストの楽曲をカバーしていく文化があるのですが、私はこれこそが非実在アイドルコンテンツ界における最も大きな発明だと思います。理由を説明しましょう。
まず歌詞や曲調がアイドルに合ってることは大前提として、実在アーティストによる曲は現実世界において「ヒットソング」「ドラマの主題歌」「有名アニメのOP」などといった位置づけ・受容が存在し、多くは実在アーティスト本人によるPVが公開されています。そのPVに非実在アイドルの姿を重ねたり、その曲の現実世界における受容と同等の受容がその非実在アイドルに為されている状況を想像することで、その非実在アイドルについての理解度が上がりますし、さらに恣意的に非実在アイドルの世界と現実世界の壁を破壊しようという意志のもとそれを行えば、まるでそのアイドルが本当に現実世界に存在し受容されているような錯覚を得ることで莫大な感情を得ることができます。
こういったことを、一部では「実在性が上がる」と称しているのですが、実在性を上げるためにとても効率的なので実在アーティストのカバーは素晴らしい発明だ、というわけです。

さて、その文化の始まりは本家MASTER ARTISTの頃で、現在は本家に加えデレマスでも為されているのですが、本家のカバーとデレマスのカバーを比較すると、デレマスのほうが「本気の選曲」といった印象を持ちます。

その要因はやはり、デレマスが183人という最多のアイドル人数を抱えるコンテンツであることに帰結するでしょう。
183人もいるので、いつ再びそのアイドルが歌う曲が出るかわからない。そもそも2回目のカバー曲が募集されるかすらわからない。なのでデビュー曲とカバー曲には数年間を耐えしのげるだけの強度が必要とされる。したがってデレマスPは本家の何倍も本気でそのアイドルにハマる曲を探して選び出し、ディレ1たちも本気で選ぶ、というわけです。

それだけ情熱を持って本気で選考されただけあって、デレマスのカバー曲の持つ力はとても強く、「合ってるな~」「ハマってるな~」を通り越して、「正しい」「最適」「選んだ人は天才、ありがとう」という感想を抱かされます。
これがこの記事のタイトルに「正しい」という語彙を使った理由です。


大槻唯のキャラ付け

デレマスというコンテンツの変遷として、初期は「厨二病」「ヤンデレ」「デカいしファッションと口調がすごい」などといったひたすらインパクトの大きいレッテル的キャラ付けで開始することで客を呼び寄せ、それからだんだん「厨二病的センスもアイドルになれば効果的な個性になる」「ヤンデレに見えて実際は視野狭窄に陥ってなどおらず、ちゃんとプロデューサーのためを考えた上でアイドルをする」「デカいせいで怖がられていたが思い切って自分を出してこのファッションと口調をしたら怖がられなくなったという過去があり、そのキャラがアイドルに活かせる」というような掘り下げを行うことでストーリー性を与える、といった大きな流れが今までありました。

大槻唯の初期のキャラ付けはというと、まず1つめは「ギャル」でしょう。これだけだと城ヶ崎美嘉と被るので、さらに「適当」「誰とでも仲良くなれるコミュ強」も加えます。
ここでギャルというキャラ付けについてひとつ。その昔、オタクコンテンツが完全に陰キャラの逃げ場だった時代において、ギャルという存在はオタクにとって完全に恐怖の対象でした。しかし2000年代も終わりの頃、この「オタクコンテンツ=陰キャラ」の等式は崩壊していきました。SNSや掲示板などで「ギャルは本当は(陰キャラにも)優しい」というようなエピソードが好まれだしたのもこの頃になります。
大槻唯・城ヶ崎美嘉は、この過渡期に作られたキャラです。実際その頃はまだギャルへの抵抗は大きく、城ヶ崎美嘉単体だと通らないだろうと考えたキャラデザの杏仁豆腐先生が城ヶ崎莉嘉と姉妹ペアにすることで通した、という話もあります。
そういう時期に作られただけあって、彼女らのキャラ付けには別々ながら「ギャルは本当は優しい」に近い方向性が見られます。
城ヶ崎美嘉は「実際は純情」、大槻唯は「誰とでも仲良くなれる」(≒「陰キャラにも優しい」)というキャラ付けがそれにあたります。
ちなみにデレアニ20話で(はっきり言うと陰キャラな)鷺沢文香から重要な台詞を引き出したのが大槻唯であることは、この「誰とでも仲良くなれる」「コミュ強」のキャラ付けが活かされた役回りになっています。


Radio Happyで決定された大槻唯というアイドルのテーマ性

城ヶ崎美嘉は元からカリスマギャルという設定だったので、アイドルとしてどうパフォーマンスするのか、すなわち外面的にはどういうキャラクターを持つのか、どう受容されるのか、というイメージについても自然にそれまでの延長で「カリスマJKギャルアイドル」ということになりました。
言ってみれば、デレアニは自分をいかに輝かせるかを見つけにいく物語なので、その主役であるシンデレラプロジェクトはまだどう輝けば良いかわからないアイドルたちで始める必要があったため、最初からアイドルとしてのイメージ(=輝き方)が確立されている城ヶ崎美嘉シンデレラプロジェクト初期メンバーに入るのは不適切であり、外側からシンデレラプロジェクトに輝きの片鱗を見せる役回りが適切なためそうなったと言えるでしょう。

しかしそのような明確なイメージを最初から持たされているキャラは少ないです。そもそもアイマス自体がアイドルとプロデューサーという舞台裏をメインに描写する作品であることもあり、曲が来るまでは数枚の特訓後カードくらいしかヒントがありません。
実際私も大槻唯についてどういう受容のされ方をイメージすれば良いのか想像できずにいたのですが…

ですが、そこで登場したのがRadio Happyです。
この曲に、すべては決定されました。

THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 041大槻唯

THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 041大槻唯

Happy

まずこの曲は「君」に語りかける歌詞からなっており、おおまかに言うと、「君」を外の楽しい世界へと誘い出す内容です。
その中でも、

悲しいときには呼んで
オンエアいつでもOK
君が踊りだすトップ10
届けるよ
キラキラなブルーの涙は
あの虹の色に溶けていくよ

過去はいま笑い飛ばそうぜ

の部分に特に代表されますが、「暗い状態から救い出す」意味合いを強く保持しています。
もちろん元から明るい状態でも問題なく幸福へ誘い出してくれます。この積極性は「救い」と称するのが適切でしょう。
「明るい状態だろうが暗い状態だろうがかまわず救い出してくれる」ということ。
最初にあった「ギャルは本当は優しい」という言葉が極限まで強化させられ、何よりも優しい「救い」になったのです。

Radio

そしてこの曲がラジオをモチーフにしていることも同じく重要です。
この曲はラジオから流れてくるようなイコライザがかかったイントロで始まり、有線で流れていてほしい感じのリズミカルなサウンドを奏で、再びラジオっぽいイコライザがかかったアウトロで終わります。
この編曲の示すとおり、この曲が実際にラジオで全国に流れている状況を想像すれば、自ずとラジオをモチーフにした意味がわかります。
ラジオは誰もが聞けるもの。全国のすべての人にこの曲は届く。つまりこの「君」の対象とされているのは「すべての人間」。
「誰とでも仲良くなれる」の「誰とでも」が極限まで強化させられた結果「すべての人間にとって」となったのです。

Radio Happy

作詞のMC TCさんが「ギャルは本当は優しい」「誰とでも仲良くなれる」を極限まで強化した結果、「すべての人間にとって救いとなる曲」としてRadio Happyは誕生し、ひいては「すべての人間にとって救いとなるアイドル」としての大槻唯が決定されたわけです。

大好きな君に届けたいよ
大好きな君に届けたいよ!



大槻唯にスターラブレイションを選曲することがなぜ正しいのか

受容

スターラブレイションはケラケラのヒット曲で、「ラスト♡シンデレラ」という覇権ドラマ(「ガリレオ」に次いで2番目に視聴率が良かったので十分覇権)の主題歌として使われていました。
「すべての人間にとって救いとなるアイドル」である大槻唯はそれに相応しいだけの受容をされるべきです。その姿を重ねる対象として、覇権ドラマの主題歌を担当したヒット曲は十分相応しいでしょう。

歌詞

「ラスト♡シンデレラ」は主人公の39歳未婚女性(ヒゲが生える)が結婚する話、というとちょっとアレですが、エッセンスは暗い状態を打開し夢を叶える話であると言えます。
「ラスト♡シンデレラ」の主題歌としてスターラブレイションの歌詞を解釈すると、歌詞はすべて主人公視点であり、「君」は結ばれる相手を指し、サビは自分に言い聞かせる部分ということになるでしょう。情景として浮かぶのは結婚をゴールとする道ですね。

ではこれを大槻唯自体の曲として解釈した場合はどうなるか。
ありがたいことにスターラブレイションに直接的に「ゴール=結婚」を示唆する部分は無いので、結婚への道ではなくアイドルの道として解釈することが可能です。
すると

誤解される性格だから またココロが疲れるんだね
この先もそうやって 強がり言って
同じように生きてくの?

らへんは暗い状態にいる「君」への呼びかけとして解釈され、そんな「君」のためにステージに立つという大きな愛に満ちた歌になります。

雲一つ無い空に 両手いっぱいの愛が
真っ直ぐに君へと届けに行くよ
(どこまでも)

流石にRadio Happyと違ってラジオという巧妙なモチーフが存在したりはしないので構成としては劣りますが、代わりにRadio Happyでは全くそんな素振りのない「大槻唯自身が不安を感じることもある」ということを語り、「それでも心を固めてステージに立つ」という情景を想像させることができるのは優れている点です。

あとやっぱ歌詞に「シンデレラ」が含まれるのが本当に良いですね!!

曲調

楽しげなJ-POP!!!正解!!!